今上天皇の生前退位が大きな話題となっていますが、それが実現した場合に退位された今上天皇の呼称を従来使用されていた「上皇」にするのか、新呼称をつくるのかが政府内部で問題とされています。
上皇(太上天皇)という歴史用語の言葉の響きが問題とされているのです。「前天皇」という言葉も検討されているようですが、歴史の重い負の面を国民に連想させるのを政府は極力避けたいようです。
84歳と御高齢の今上天皇、激務に耐えられず生前譲位を検討
現在84歳であられる今上天皇は御高齢と健康問題のために皇太子殿下への生前譲位が取り沙汰されています。
現時点では父君であられた昭和天皇と第108代の後水尾天皇に次いでの御高齢ですが近年では癌を含む御健康問題が噴出し、激務であられる国事行為などの御公務を務められることが困難になったようです。
日本国憲法では摂政を置くことも認められていますが、法的な整備は不十分なままで現代に至っています。
退位後の呼称が、歴史的経緯から大きな問題に
日本では退位した天皇の記録は多く、「上皇」(正確には太上天皇)という呼称は現在では歴史用語として広く認識されています。
しかし、院政があった時代には「院」という呼称が一般的でした。百人一首でもそれは認められます。この言葉の裏にはさまざまな理由によって表向きは政治の中枢から退いた後にも「後見人」的な存在として、実権を握り続けることを意味します。
似た例では武家政治の「大御所」という存在が挙げられるでしょう。また特定の時代に関わらず、政治の実力者のことを邸宅のある土地の名前から「殿」(禁裏で足利幕府の将軍を室町殿と呼んだのはその好例)と呼んで、実名を使うことが憚れたようです。これは隣の中国でも同様で、その根幹には「言霊信仰」の影響もあるでしょう。
戦後の日本において積極的に天皇制に関する発言は好ましくない事例とされて来たようですが、遠回しにしておいたことが現実となって現出したことには否定できません。それだけ現代にもいても、天皇制は日本にとって大きな存在であると言えます。
歴史的な呼称「上皇」は有力候補だが、政治的な意味合いに戸惑い
これまでの歴史的な流れから「上皇」という言葉には「院政」という響きも含まれて、戦後の社会的風潮にはそぐわないという意見は当然だと思います。
確かに明治維新後の近現代では日本においては生前に退位された天皇はおられないので、現実のものになれば大きな問題となるでしょう。
それだけ呼称の問題は大きな影響力を持っていると言えます。最終的に政府は学識者とも相談して、国会もそれを了承して、国民が納得する方法を選択することになります。
ライター:anb 編集:moz